2026.08.28
京都府大山崎町の『アート&テクノロジー・ヴィレッジ京都(ATVK)』に、未来の暮らしを考える実験空間『HESTA CROSS』が誕生。町家2軒の柱梁を受け継いだ建物に、建築、スマートホーム技術、デジタルサイネージなどがクロスする、新しい住まいのかたちです。オープンレポート第1弾となる今回は、設計に関わった建築コレクティブ『SUNAKI』のお2人からヒアリング。こけら落とし として披露された映像インスタレーションの制作を手がけた、若き学生作家さんたちにも話を聞いてきました。

SUNAKI
左_寺岡波瑠さん/右_砂山太一さん
建築を起点に、リサーチ、構想、設計、制作、実装、運用まで手がける建築コレクティブ『SUNAKI』。チームとして『HESTA CROSS』プロジェクトに参画する中、今回のインスタレーションでは、砂山さんがディレクション、寺岡さんが制作進行を担当。@sunaki.inc
目次

解体廃棄の寸前にあった町家2軒の柱梁をベースに、3組の建築家/建築コレクティブの思想が融合した『HESTA CROSS』。建物内は3つのエリアに分かれ、『魚谷繁礼建築研究所』がUnit.01、『SUNAKI』がUnit.02、『タステンアーキテクツ』がUnit.03を担当。「未来の住宅」「未来の暮らし」というテーマのもと、伝統と未来、人と人、建築・アート・テクノロジーがクロスする、未来の暮らしの実験装置です。
Unit.01を手がけたのは、京町家など歴史的建造物の再生・保存にも取り組む『魚谷繁礼建築研究所』。天井、壁、床のサイネージに、超軽量の太陽光パネル。水循環システムを備え、可動式キッチンとバスルームを取り入れた、オフグリッドな暮らしの実験空間です。
Unit.02は、後述の建築コレクティブ『SUNAKI』。廊下や屋根裏のようなすきま空間に、ジャストサイズの書斎や茶室さながらの屋根裏部屋など、4つの小さな居場所を差し込んだ住まい。静かで親密なひとときを、未来の暮らしの魅力として捉えた空間に。
Unit.03を手がけたのは『タステンアーキテクツ』。波打つ床や、受け継いだ柱梁の中に傘のように架かる扇垂木、彩り豊かなポイントカラー。住まいをもっと感覚から捉え直すための空間は、まるで公園のように自由で楽しい居心地に。

ここで、『HESTA CROSS』のUnit.02を担当した『SUNAKI』のお2人からヒアリング。3つの創造性が協業したこの場所に、一体どう関わったのか聞いてみました。
「まずテーマとして、『未来の住宅』『未来の暮らし』というものがありました。それに対して、それぞれの建築家が興味のあるテーマを設定し、3組で話し合いながらブラッシュアップしていく中で、『SUNAKI』のユニットには、ARなどのデジタルデバイスも導入。それを使って、別ユニットのサイネージとつながったりしたら、おもしろいんじゃないかなって」(寺岡さん)
「いまお話しているこのスペースも、ARを使って何かを行うことを想定した部屋なんです。ヘッドマウントディスプレイをつけて、いろいろなコンテンツを体験するような、未来の茶室のようなイメージですね」(砂山さん)

本プロジェクトの肝となる、サイネージなどのデジタルテクノロジー。その機能をただ見せるだけではなく、訪れた人が楽しめる仕組みとしてどう活かすか。砂山さんは、この場所を未来の暮らしを考えるための実験場として捉えています。
「HESTA大倉さんの製品は、普段は暮らしを支える機能的なものだと思います。それを少しおもしろく、イベントなどで訪れた人が楽しめる仕組みとして、この建物を使って見せていければと考えています。これだけ大規模にLEDディスプレイが入っている住宅的な空間は、なかなか類を見ません。ある種、答えのない、これから未来を考えていくための実験場になればいいなと思っています」(砂山さん)

その実験場で、今回、実際に映像インスタレーションをかたちにしたのが、京都市立芸術大学の学生たち。寺岡さんは制作進行の立場から、学生2人の動きを近くで見ながら、その先にある場づくりにも目を向けています。
「2人ともとても主体的に動いてくれました。お題はあるのですが、その中で、2人で考えたことも提案をしてくれて。2人のような学生はもちろん、興味を持ってくれた地域の人や、周りに入ってくる企業の方々とも、今後はつながりを持てたらと思っています。そこにHESTA大倉さんにも入っていただいて、交流しながら何か新しいものをつくっていけるような、そんな場づくりから始めていきたいですね」(寺岡さん)


そんな映像インスタレーションを手がけたのは、京都市立芸術大学 構想設計専攻4回生の黒田悠晴さんと奥西 蓮さん。砂山さんの授業をきっかけにこの場所と出会い、今回の制作に参加しました。
「昨年、授業でこの場所を使わせてもらったことがあるんです。LEDディスプレイを使って何かをやってみようという内容でした。今回は、その授業でも面白い試みを行ってくれていた黒田さんに声をかけ、奥西さんも誘っていただきました」(砂山さん)
黒田さんと奥西さんが制作したのは、全面ディスプレイを備えた空間だからこそ成立する映像インスタレーション。最初に考えたのは、この場所でしかできない体験のつくり方でした。
「“つながりを感じられる場所にしたい”という話を先生から伺いました。この、ディスプレイが天井⾯と壁⾯を覆っている光景というのは、普段なかなか⾒ることのないものですし、これじゃないと表現できない”つながり”とは何か、と空間の可能性を探るところから始めました」(黒田さん)
一方で、特殊な空間だからこそ、実際に作品として動かすまでには技術的なハードルも。奥西さんは、映像を空間に合わせて立ち上げるまでの準備を振り返ります。
「映像そのものはもちろんですが、PCまわりの設定や設営も難しかったです。画面の出し方や動作の調整など、実際にこの空間で動かすための準備に苦労しました」(奥西さん)
2人が着目した“つながり”は、室内だけで完結するものではありません。部屋の外に設置したカメラと室内の映像をつなぎ、外にいる人の姿をリアルタイムで室内に映し出すインタラクティブな作品も制作。室内側からカメラを動かすこともできる、少し不思議なコミュニケーション装置です。
「ただ防犯カメラのように一方的に監視するものではなく、もう少しつながりを生むような存在としてカメラがあればいいなと考えて、外のカメラ自体が動かせるようにデザインしました。成功するかどうかは別として、やってみて何が起きるんだろう、というところから考えたコンテンツです」(黒田さん)
内と外とのつながりを生むカメラの作品に対して、こちらはこの部屋の中で完結する、より静かなインスタレーション。人が動かずにじっとしていることで映像が立ち上がり、色やリングがゆっくりと変化していく、瞑想的なコンテンツに。
「これは、動かないことによって始まる作品です。この部屋に畳が敷かれることは聞いていたので、静かに瞑想的な時間をつくれるものにしようと思いました。動かずにいると映像が開いていき、リングが生成されていく。リング同士が相互作用することで、少しずつ空間の表情も変わっていくようなイメージです」(黒田さん)
今回制作された映像インスタレーションは、『LIGHT』『CAMERA』『OPEN』の3つ。いずれも、全面ディスプレイを備えた『HESTA CROSS』の空間を活かし、人や場所との“呼応”を生み出すコンテンツに。
1.『LIGHT』
ディスプレイを照明や光を取り込む窓として捉えた、呼応する照明。明るさや色味を調節する「調光調色」、上階で取得した音声に応じて光が微かにゆらぐ「気配」、室内の動きに反応してイキモノの影がゆったりと漂う「観察」という3つの機能を備えた作品。
2.『CAMERA』
防犯カメラをコミュニケーションツールとして捉え直した作品。遠隔地にある箱を覗き込むと、その映像が室内の天井ディスプレイに映し出され、まるで小人になったような不思議な体験に。カメラ什器には偏心モーターを内蔵し、コントローラーの操作で箱が揺れるというひと手間も。少し不便な意思伝達で、内と外とをつなぐ仕組み。
3.『OPEN』
映像を用いた瞑想空間を体験する作品。室内で1人になり、心を落ち着かせて動きを止めると、天井から穴が拡がり、円が次々と生まれ、折り重なっていく。視覚的に心が落ち着く映像が展開され、体が動くと瞑想空間は終了する。

学生たちの手によって、「未来の住宅」の中に立ち上がった映像インスタレーション。けれどこの試みは、ここで完成ではありません。『SUNAKI』のお2人も、今後はイベントなどを通じて、今回の映像を来場者にも体験してもらえる機会をつくっていきたいと意欲的。
その先に見つめるのは、建築を完成品として見せるのではなく、人や技術、表現が入り込みながら変化していく場所として育てていくこと。
町家の柱梁を受け継いだ建築に、スマートホーム技術、映像、AR、学生たちのアイデアが重なっていく『HESTA CROSS』。伝統と未来、人と人、建築とテクノロジーがクロスするこの場所は、まだ始まったばかりです。

HESTA CROSS
住所:京都府乙訓郡大山崎町字大山崎小字鏡田30-1 ATVK内 MAP
URL:https://okura.co.jp/products/atvk/
Credit
Photo_Shuhei Nomachi, Ryo Sato
Text & Edit_Satoshi Yamamoto
▼関連記事